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Power Dressing

自分はどう見られたいか、外見を異常に意識し女王としての権威と自分のイメージを作り上げることにこだわったエリザベス1世は、他に類を見ない彼女独特のファッションを作り出しました。
特徴的なのは、顔の周りの蝶の羽のような半透明のベールや、今やエリザベス・カラーと呼ばれる大きな立ち襟です。

それらはシルクと銀糸で織られ、まるで後光が差しているかのように、彼女を神懸かり神秘的に見せる効果を狙ったもの。
繊細な刺繍でトリミングされた立ち襟は、ひだがたっぷりあり、顔の周りをぐるっと囲んでいます。
500年も前の時代なのに、まるでレフ版の効果を知っているかのようです。
自分の見せ方にこだわったのは、父のヘンリー8世とよく似ています。
チューダー朝の時代には、階級によって服の素材や色などが決められており、君主のファッションは、トップに君臨する人物の富・権威・権力を周囲に見せつけるパワーの象徴でした。

そんなパワー・ドレスを着たエリザベス1世を描いた数ある肖像画の中で、最も興味をそそられる1枚がこの「虹の肖像画(The Rainbow Portrait)」です。
この肖像画には、あらゆる部分にシンボルやモチーフが描き込まれてあり、まさに計算されたイメージで描かれた絵なのです。
そしてこの「虹の肖像画」の隠されたメッセージは”独特”です。初めて知った時は、少しドキッとしました。でもすごく面白いと思いました。
一つ一つご紹介したいと思います。
虹をつかむエリザベス女王

エリザベス1世が、右手で「虹」を掴んでいます。しかも、虹の頂上を上から。
その上に、ラテン語で「NON SINE SOLE IRIS」と書かれてあります。これは英語で「No Rainbow Without the Sun(太陽がなければ虹は出来ない)」という意味だそうです。
この肖像画のタイトルとなった「虹」は平和のシンボル。
その「虹」を上から掴んでいるエリザベス1世は、太陽あるいは天の力を持った神々しい人物だということを表しています。
虹をコントロールする姿は「この国に平和をもたらすのは、エリザベス女王」なのだと伝えているのです。
とぐろを巻いた蛇
ドレスの左袖にはとぐろを巻いた「蛇」の刺繍があります。存在感たっぷりに。
「蛇」の身体には、オパールとルビーが使用されています。「蛇」は叡智の象徴なので、ここでは女王の「叡智」を表しています。
そして、この「蛇」はハート形の赤いルビーを咥えていますが、これが示す意味は女王の「慈悲の心」だそうです。
エリザベス1世といえば、真珠
どの肖像画でも、エリザベス1世は必ずたくさんの真珠をまとっています。この肖像画にも、ヘア飾り、長いネックレス、ブレスレット、ドレスのトリミング、頭の後ろのベールと、ほぼ全身に真珠をまとった女王の姿が描かれています。
真珠は「純潔」「貞操」のシンボル。
エリザベス女王は、自分の女王としての最高位を維持するために、夫(キング)を持つことを拒みました。結婚をしなければ、王位継承者ができないので、国家としては大問題です。ですが、女王は自分のパワーを維持するため、結婚には踏み切りませんでした。
その負のイメージを払しょくするために、自分はイングランドと結婚した「ヴァージン・クィーン」だとし、それをアピールするために真珠を大いに利用したのです。
このプロモーションは亡くなるまで続きました。
自分の地位や命を脅かされないよう、王位継承者を指名したのは亡くなる直前でした。
ローブに描かれた無数の目と耳

知って一番ドキッとしたのがこのモチーフ。光沢のある美しいオレンジ色のローブの模様は何と!無数の目と耳‼
不気味過ぎ……。
この大量の目と耳は「すべてを見ている。すべてを聞いている(All-seeing, All-hearing)」ということを示唆していて、女王のスパイ・ネットワークの存在を暗に知らしめているのだそうです。
チューダーの時代には、父ヘンリー8世がカソリックの国だったイギリスを無理やりプロテスタントに変えて、宗教対立をもたらした歴史がありました。(最初の妻との間に男子が生まれなかったため離縁し、アン・ブリン Anne Boleyn と結婚するために、離婚が禁止されているローマカソリック教会を離脱した。)
そのせいで、プロテスタントのエリザベス女王(エリザベスはアン・ブリンの娘)を暗殺しようとするカソリック教徒による陰謀計画に、スパイ網を張り巡らせ常に警戒していたのです。
エリザベス1世の1代前の女王メアリー1世は熱心なカソリック信者で、母はヘンリー8世に離縁を強いられた最初の妻だったので、プロテスタントに対する憎悪はかなりのものでした。
彼女は女王になった時、数えきれないほどの数のプロテスタント信者を火炙りにして処刑しました。(赤いカクテル Bloody Maryの語源)
プロテスタントのエリザベス女王の統治下では、逆にカソリック信者は異教徒となります。メアリーがしたような大量虐殺の犠牲者に自分たちがなる可能性があります。それ故にエリザベスを排除したいのです。
この目と耳は、暗殺を企てるカソリック信者らに対する警告なのです。

暗殺の危険と常に隣り合わせの身のエリザベス女王でしたが、彼女のスパイ・ネットワークは非常に優秀でした。彼女が女王になった瞬間から彼女の最も信頼する側近でありアドバイザーであるウィリアム・セシルが、スパイ・マスターとしてヘッドハントしたフランシス・ウォーシンガムは、いくつもの陰謀や謀反計画の情報を未然に収集し摘発しました。彼のお陰で、生涯エリザベスに災いが降りかかることはありませんでした。
エリザベス暗殺計画で有名なのは、スコットランド女王メアリー(メアリー クィーン・オブ・スコッツ)が関与したバビントン事件 (The Babington Plot)です。
というか、私はこれしか知りませんが、45年の治世の間には女王の命が狙われることは何度かあったに違いありません。
\バビントン事件 関連記事/
目と耳をローブの柄にして自分の肖像画を描かせ、「陰謀を企てても必ず見つけてCrushしてやるわよ!無駄な抵抗はやめなさい」という警告を発信するあたり、やはり肝の据わった百戦錬磨のエリザベス女王らしい行動です。Love it🩷
反抗を企んでいた者たちは、この肖像画を見てきっとドキッ!としたに違いありません。見つかったら最後、残された道は処刑(hang, drawn and quartered=市中引き回し、首つりのうえ生きているうちに手足切断、内臓焼却、最後に斬首)しかないのですから。
映画化された「バビントン事件」
このスコットランド女王メアリーが関与したエリザベス女王暗殺計画「バビントン事件」は、映画化されています。
シアーシャ・ローナン主演の映画「メアリー クィーン・オブ・スコッツ」。
生後6か月でスコットランド女王となり、45歳で処刑されるまでのメアリーの半生が描かれた映画。
美貌の持ち主だった女王ですが、脆弱で男性に恵まれない人生は見ていてとても気の毒…。ですが、彼女が生んだ一人息子はやがてイングランドの王になりました。
ケイト・ブランシェット主演映画「エリザベス:ザ・ゴールデン・エイジ(Elizabeth:The Golden Age)」。
この映画では、イングランド女王エリザベスとスコットランド女王メアリーの、いとこ同士でありながらライバルでもある二人の複雑な関係や、やがてバビントン事件が発生しメアリーを処刑せざるを得なくなったエリザベス女王の葛藤、またそれをきっかけに当時世界最強だったスペインが連合艦隊をイングランドに派遣し「アルマーダの海戦」が勃発したこと、などエリザベス1世統治時代のドラマチックな歴史的事実が数々描かれていて、何度見ても感動!!

「Elizabeth:The Golden Age」の中には、この「虹の肖像画」が出てきます。
女王を献身的に支え守り抜いたウィリアム・セシルが亡くなるシーンで、彼のベッドの後ろの壁に飾られているのがこの「虹の肖像画」です。
この絵が選ばれたのは偶然ではないと思っていますが、どうでしょう…。
「虹の肖像画」はハットフィールド・ハウスが所蔵
「虹の肖像画(The Rainbow Portrait)」は、ハートフォード・シャーにあるハットフィールド・ハウスが所有しています。見学すれば、この肖像画が飾られているのを見ることが出来ます。
このハットフィールド・ハウスは、エリザベス1世に親子二代で仕えたセシル家の二代目ロバート・セシルが、ジェームス1世(メアリー クィーン・オブ・スコッツの息子)の邸宅と交換して得た邸宅です。

同じ敷地内には、エリザベス1世が幼少期を過ごした「ハットフィールド・パレス(現オールド・パレス)」があり、ガイドツアー付きで見学することができます。(下に記事リンクあり)
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「ハットフィールド・ハウス」Hatfield House Info.
The Rainbow Portrait – Hatfield House (hatfield-house.co.uk)
★オールド・パレスには、ガイドツアーでのみ入れます。(£6 2024年2月現在)
★ロンドンからのアクセス良し。キングスクロス駅から25分。ハットフィールド・ハウスは、駅前にあります!
★オープン日は、HPで要チェック!
Hatfield, Hertfordshire, AL9 5HX
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・「虹の肖像画」で着ているドレスを田舎の教会で発見?!
エリザベス女王のボタニカル・モチーフのドレスが、イギリスの地方の小さな教会で発見されました。数年前になりますが、ハンプトン・コート宮殿で展示されたものを見に行きました。
エリザベス1世のドレスはほとんど残っていないので、とても貴重なものです!エリザベス1世ファンは必見!備忘録ブログとしては、もちろん記事にします。