
バッキンガム宮殿横の公園「グリーン・パーク」の周辺には、貴族の元お屋敷や現在の英国王チャールズ3世のお住まい「クラレンス・ハウス」などの大きな邸宅がいくつも建ち並んでいる、セント・ジェームス地区というエリアがあります。
中心はもちろん、英国王の宮殿だった「セント・ジェームス宮殿」。
この貴族・王族関連の建物群の中で、普段から見学(ガイド・ツアー)が可能な「スペンサー・ハウス」を見学してきました。
このスペンサー・ハウス、グリーン・パークに隣接して建っているわけですが、実は建物自体にはお庭がありません。お屋敷から一歩外に出ると、そこはグリーン・パーク。グリーン・パークが庭代わりというと聞こえがいいですが、実際には公園を訪れる見ず知らずの人達が家のすぐ前をウロウロしているわけで。。。
という訳で、そのうちこれでは都合がよろしくないということになり、国王から土地(グリーン・パークは現在チャールズ3世の所有地)を賃借し、柵を設けてプライベートな庭園を確保しました。
Contents :
ダイアナ妃の出身スペンサー伯爵家が18世紀に建てたロンドンの邸宅

ダイアナ妃の結婚前の姓は、スペンサーです。17世紀から続くスペンサー伯爵家のご出身です。
このスペンサー・ハウスは、ダイアナ妃の先祖、第1代ジョン・スペンサー伯爵によって建てられました。当時としては新しいネオ・クラシカル建築のタウンハウスです。

ジョン・スペンサーは、映画【The Favourite(女王陛下のお気に入り)】に登場するアン女王のお気に入りマールボロ公爵夫人サラ・チャーチルの曾孫にもあたる人物で、ジョージアーナ・ポインツ <Georgiana Poyntz> という女性との結婚後すぐにスペンサー・ハウスの建設に着工し、10年後の1766年にハウスは完成しました。
カップルは、お互いに多額の遺産を相続していて大変に裕福でした。お屋敷は、スペンサー家の富と、相続やグランド・ツアーで得たアート・コレクションなどを披露する場として建てられたのだそうです。
2人は貴族同士の結婚としては珍しくLove Match でした。結婚してすぐに建てられたスペンサー・ハウスには、お屋敷全体、家具に至るまで ”ホスピタリティ・セレブレーション・結婚・Love” の要素が散りばめられているそうです。
妻のジョージアーナは美しい女性で、スペンサー家の本宅オルソープ<Althorp>(現在、ダイアナ妃の弟チャールズ伯爵が居住)には、彼女の肖像画がThe Oak Roomに飾られているそうです。
有名トラベラーで社交界にも通じていたアーサー・ヤングという人物がスペンサー・ハウスを訪れた時「ロンドンで最も素晴らしい貴族の城」と賛辞を贈ったそうです。
The Palm Room(パーム・ツリーの部屋)


このスペンサー・ハウスで最も特徴的なのが、イギリスの家には珍しい、トロピカルで明るいパーム・ツリーが装飾されたこの部屋です。
パーム・ツリーは子孫繁栄のシンボルなんだそうです。

とても優雅で女性的な雰囲気の部屋ですが、実は男性専用の部屋だったそうです。紳士たちがディナーのあとにひけ、男性たちだけで集うための部屋です。
女性たちはディナー後、大広間のすぐ横にある「Lady Spencer’s Room」という部屋に移動しました。大きなホールでのディナーの席から、小さな部屋に移ることによって、より親密に同性だけでお喋りができるわけですね。(Lady Spencer’s Roomでの撮影は禁止でしたので、写真はありません。)
※スペンサー・ハウスでは、Victoria &Albert Museum、Nationaol Trust、The Royal Academy、The Royal Collection Trust、The Royal Pavilion Brightonなどから貸与された作品が多数展示されているので、撮影が許可されているのは「The Palm Room」と「The Great Room」の2部屋のみでした。
The Great Room(大広間)

このThe Great Roomは、多くの招待客を招いてのパーティや舞踏会の会場として、また絵画のギャラリーとして使用されました。現在では結婚式の披露宴会場などとして貸し出されていて、一般に利用可能となっています。

天井にあるブロンズでできたメダルは、ヴィーナスやアポロ、バッカスなどのギリシャ神話の人物が描かれており、天使やグリフィン(神話に出てくる想像上の動物)らに支えられています。多くの絵画と共に、芸術・アートの美・愛情・社交などが表現されたモチーフが部屋のあちらこちらに散りばめられています。
ホワイト・グリーン・ゴールドで装飾されたモザイク模様のような天井はとても明るく美しく、また四辺がカーブした形状の天井は視覚効果により高く見え、ネオ・クラシカル建築の特徴的な造りになっています。
ギリシャ神殿のような柱が両脇にあるドア周りの装飾も神秘的で、これもネオ・クラシカル建築の特徴です。


シャンデリアもロスチャイルド財団によるリストア事業によって、当時のものが職人によって再現され(ただし、ロウソクでなく電灯)ました。
太陽の光が燦燦と差し込んだこの日は、繊細なデザインのシャンデリアが光を反射してキラキラと上品な輝きを放っていました。実物の美しさが、写真では表現できなくて残念ですが😿

ここが、実はグリーン・パークの中というスペンサー・ハウスのお庭です。
現在はチャールズ3世からパークの土地の一部をリースしています。この他にも、スペンサー・ハウスはチャールズ3世から数点の絵画などを借りており、それぞれリース料を払っているそうです。
The Great Roomは接待の場でお屋敷の中央に位置しているので、お庭が正面に見えます。
ロスチャイルド家が修復?!
1920年から1930年にかけて、ロンドンでは18世紀に建てられた貴族のタウンハウスの多くが維持できず解体されるという憂き目に逢いました。
世の中の経済の仕組みが変わり、金銭的に窮したスペンサー家も、解体こそしませんでしたが、1926年にはここを去ることになりました。所有権はスペンサー家にありながら、どういう仕組みなのかよくわかりませんが、数日のうちに退去しなければならなかったそうです。
すると当時のスペンサー家は、その数日のうちにお屋敷にあった家具・絵画・装飾品・調度品・日用品・ファブリック類に至るまですべてを運び出し、何と壁面に取り付けられたチェア・レイル(壁の下部を覆う木製のモールディング)までも剥がして、お屋敷の中をすっからかんにして出ていったそうです。
この間ほんの2,3日だったそうで、この短い間に馬車で屋敷の荷物を全部運びだしたという驚きのエピソードは、今でも語り草になっているようです。スペンサー家、流石の行動力です👊羊飼いから貴族になれただけのことはあります。
この時に運び出した荷物は、現在オルソープにあります。
その後スペンサー・ハウスは借り手が付かずしばらくの間放置されました。経年劣化と共に戦争によるダメージも受けてしまいました。修復されないまま一時期はオフィスとして商用利用されたり、兵士のクラブとして利用されたりした時期もあったそうです。
かつてはロンドン社交界の中心だった華やかなスペンサー・ハウスですが、どんどんその文化的・歴史的・芸術的価値が失われていきました。
そこに救世主が現れました。ユダヤの大富豪一族ロスチャイルド家です。
ボロボロになったスペンサー・ハウスは、ロスチャイルド卿がチェアマンを務めるRIT Capital Partners によって、1982年に125年間のリース契約が結ばれ、幸いなことに彼らはスペンサー・ハウスをかつての貴族の館に復元・再建してくれたのです。
スペンサー・ハウスは、建築された時と同じく10年の期間をかけて、復活を遂げました。

この素晴らしく豪華なサイド・テーブルと鏡のペアは、ここThe Great Room に元々あった家具で第1代スペンサー伯爵の結婚を祝福するためにデザインされ製作されたもののコピーです。Dick Reid という専門家によって、オルソープに運び出されたオリジナルから忠実に複製され、オリジナルがあった位置に置かれています。
窓にかかっている深紅のスワッグは、1926年に運び出されたもの。つまりオリジナルです。スペンサー家から貸し出されています。
見事に全てを持ち出したスペンサー家ですけれど、この先祖の邸宅の復元プロジェクトに参加しサポートしています。(まあ、当然ですよね。)というか、自分の懐は痛まず、所有物件の価値を上げてくれる彼らを断る理由はないですね…。
ロスチャイルド家のRIT Capital Partneres から派遣されたクラフト・マンや美術・建築・文化作品などの保存の専門家らがオルソープを訪れ、スペンサー・ハウスから持ち出されたオリジナルの家具やインテリアを研究・参考にして、この復元プロジェクトを成功させました。

☆おまけ☆のスペンサー家 出世物語✨
ダイアナ妃の実家スペンサー家は、元々羊飼いを生業としていた一家でしたが、それは420年以上も昔の話。今では貴族としての長ーい歴史があります。
スペンサー家がオルソープに邸宅を構えていることは、ダイアナ妃の記念碑があることでご存じの方も多いと思いますが、実はこのオルソープという土地、爵位を与えられた時に君主から与えられた土地と邸宅というわけではなく、羊飼いの時代に既にここに住んでいたのだそうです。
養羊業、つまり羊飼いで成功し富を築いたスペンサー家は、1506年、より広い牧羊地を求めてノーサンプトン近くの高台の土地オルソープを購入しました。大金持ちであったスペンサー家は、宮廷入りを果たし、そこからとんとん拍子に出世していきました。
1603年、エリザベス1世が崩御し、スコットランドのジェームス1世がイギリス国王になった年、新国王ジェームス1世からBaron Spencer(スペンサー男爵)の身分を与えられました。
1627年、ジェームス1世の息子チャールズ1世からEarl of Sunderland(サンダーランド伯爵)という爵位を与えられました。
息子の第2代サンダーランド伯爵ロバートは、大変聡明で仕事ができる男で、宮廷で不可欠な存在となります。
その後、「王政復古」のチャールズ2世、その弟ジェームス2世、「名誉革命」でオランダからやって来たウィリアム3世と、スチュアート朝時代の代々の王に重用され、スペンサー家は貴族として宮廷での地位を確かなものにしていきました。国王の命を受け、フランスやスペインへ大使として赴任したりもしています。
第3代サンダーランド伯爵も、アン女王、ジョージ1世の重鎮となり、ジョージ1世の下では、首席財務長官や議長なども務めました。
その孫ジョン・スペンサーがこのスペンサー・ハウスを建てた人物です。
1762年、ジョージ3世よりViscount Spencer(スペンサー子爵)を賜り、続いて1765年、(1st) Earl Spencer (第1代スペンサー伯爵)を賜りました。この爵位が現在受け継がれています。

彼は先に書いた通り、サラ・チャーチル <Sarah Churchill, Duchess of Marlborough>の曾孫にあたります。彼女は、映画【女王陛下のお気に入り】で描かれているように、アン女王がとても頼りにしていた人物。
アン女王のお気に入りになると、当時の宮廷で最も影響力のある人物となった賢くパワフルな女性です。
彼女はまた、英国の元首相ウィンストン・チャーチル <Sir Winston Churchill> の先祖でもあります。スペンサー家、スゴイ人物たちを輩出していますね、侮れません。
サラ・チャーチルとアン女王が登場する映画【女王陛下のお気に入り(The Favourite)】は私のお気に入り映画の1つです。
実はコメディーに分類されているこの映画。アビゲイル(エマ・ストーン)とマーシャム(ジョー・アルウィン、テイラー・スウィフトの元カレ)の掛け合いが面白いので、是非是非ご覧になってみてください♡
\20○○年、スペンサー家、いよいよ国王を輩出!?/⇩
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★スペンサー・ハウスに行こう! Spencer House Info.
HP : Spencer House | Historic Houses to Visit in London
アドレス: St. James’s place, london, sW1A 1NR グリーン・パークからアクセス可能。
☆ガイド・ツアーでのみ見学可能。毎日曜日開催。要予約。£18.5(執筆時の一般価格)